「じゃあルック、ミクミク迎えに行こうか!」 「……その名前って……」 「そう! ムササビ!」 「だから何で僕が行かな」 「軍主命令」 「……」 「さ、しゅっぱーつ!」 「じゃあ今日は森の村まで往復運動だね!」 「切り裂き」 ごおぅっ!! 「うわ危なっ」 唐突に放たれた切り裂きを間一髪で避けるシュウユウ。 ぱらぱらと風に舞う自分の髪の毛をぼうっと見つめる。 てか当たったら死ぬんですけどコレ。 「あのなあ! 一体ナニすんだよ!? 危ないだろーが!!」 当然、その反応は予想していたのだろう。全く表情を変えず 「ああ、敵が見えたんだけどね」 「嘘つけコラ」 「どう思うかはあんたの自由だよ」 「……まさかその敵って僕のことじゃないよね……」 「さあね。どう思うかは自由だって言ったはずだけど」 「ルック」 「何」 「ムササビに会いたくないの?」 「五月蝿い。ただでさえこの間あんたに付き合ったおかげで結局変な噂がたって迷惑してるんだよ」 「ムササビと仲がいいって変な噂かなあ?」 てか否定はしないんだ、と思いつつ無難にそうとだけ言う。 ムササビと仲良し。可愛くていいと思うけど。 「動物と仲が良いと噂されて喜ぶのはあんたとキニスンぐらいのもんだよ。そもそもあんた、今度マチルダに行ってゴルトーに会いに行くんだろ。こんなことしてていいのかい」 「うん。出発は明日だから。シュウに今日は休めってさ。たまには言い事言うよねあの長髪」 「軍師の言う事聞きなよ」 うんうんと満足そうに頷くシュウユウに迷わずつっこむ。するとえー、と不満そうに 「何言ってんのルックってばさー。だから今こうして休んでんじゃん。この辺の敵なんてもう僕らの相手じゃないし。息抜きも休みの範疇でしょ? 心配しなくても自分のコンディションくらい把握してるってー」 ていうかもう行くよー。と、歩き出す。 一体いつ僕があんたの心配をしたっていうのさ。 ああもう素直じゃないなー。うん。それにそもそもルックより先に僕が倒れることなんてないよ。 ……そんなに風が好きかい? ぶつぶつと文句をいいながら帰るわけにもいかず結局ついて行くルック。森の村なんて結構遠いじゃないか、とすぐ後の城門を振り返る。門番と目が合った。あきらかに顔のひきつった兵はさらっと無視してさも嫌そうにシュウユウの後を追う。いきなり現れたと思ったら魔法ぶちかまして舌戦する少年達がいなくなり、ほっとした様子のハイランド兵。 というか敵の総大将の顔ぐらい覚えておきましょう。 「びんぼうがみが2匹。ほら。一人で戦いなよ」 「あ、やっぱ覚えてた?」 前回のマクマク探しの際、一人で戦うと言ったのは自分だったので異存はない。 後方で腕を組み、完全に傍観状態のルックに笑いながら頷き、一切の無駄の無い動きでトンファーを構える。先程も自分で言っていたが、びんぼうがみの一匹や二匹。はっきり言って敵ではない。 「じゃ、いってきまーす」 間延びした口調とは裏腹に、とりあえず近くにいた方のびんぼうがみに一気に間合いをつめ、トンファーを振るう。左のトンファーで体勢を崩し、右で止めを刺す。 「次」 低く呟き、もう一匹の方へ勢いを殺さぬまま向き直ったところで。 「ムゥー!」 べんっ。 びんぼうがみがこちらに倒れてきた。 「ぅわっ!?」 慌ててトンファーと横薙ぎに振るい、止めを指すというよりは抱き合うのを防いだ。 「ムムゥー」 声に振りかえると、そこには片手をあげ、勝利のポーズらしきものをつけている、一歩間違えれば目に痛いピンクのマントを纏っているムササビ。透き通った大きなスカイブルーの目が陽に反射した。 「うわあ! 可愛い!! 君がミクミク!?」 「ムー」 「ありがとう! 僕たちを助けてくれたんだよね!」 本当はむしろ邪魔だったけど! これが他の相手だったら間違いなく続けられただろう言葉は胸に秘めたまま、嬉しそうにいかにも優しげな笑顔を作る。 「ムムー!」 にこにこと歓迎され、ミクミクも嬉しそうだ。 「それにしても早かったね。まだ森の村についてもいないのに」 楽でいいけど。 冷静な声で呟いたのは勿論ルック。 「ム?」 反応して抱き上げられたシュウユウの肩ごしに後にいた緑の服を着た少年を見る。 視線が一点で止まった。 「ムムゥ〜。ムー、ムー」 「わっどうしたのミクミク? 暴れると危ないよ」 「ムームー」 視線を停止させたまま小さな手をぱたぱた動かし、ルックを指差す。 「何? ルックがどうかしたの?」 離したくなかったので抱きかかえたままルックに近づく。 「……何?」 顔を凝視され、指をさされたルックは不機嫌そうだ。 「ムムゥー」 ぎゅ。 「……ちょっと。本当になんだっていうのさ」 法衣の端を掴まれ、戸惑いを隠せない。 目をきらきらさせてルックを凝視するミクミクにもしかして、と暗い声でシュウユウが呟く。 「ルックの事、気に入った?」 「ムーーー!!!」 「なんでさ!?」 「ちくしょう、なんでルックばっかり!?」 世の中不公平だー! と叫ぶシュウユウ。手が緩んだ隙に抜け出し、ぴったりとルックに張り付き幸せそうなミクミク。張り付かれ、硬直するルック。 三者三様。 世界は平和だ。 「くそう! こうなったらこのままメクメク探しに行くよ!」 「その前にこれどうにかしてくれる!? ……いい加減、離れなよ!」 「ム」 「ヤじゃない!」 「あ、なんか見せつけやがって! メクメクー! 君は僕を選んでくれるよねー!?」 「重いんだよ!」 「ム、ム」 「気のせいでもないよ!」 なんだか言葉通じてるんですが。 ルック、パニックになると語学堪能? 「……結局メクメクいなかったー」 「もう夕方だよ……何時間いたんだよ僕ら……」 「えー。7時間くらいー?」 「……わざわざ言わなくてもいいんだよ」 「なんだよー。聞いたのルックじゃんー」 「……ふぅ。ああ、戻る前にこれ受け取って」 「ミクミクよく寝てるよねー」 「全く腕が痛いよ」 「ルックは力なさすぎるんだよ」 「切り裂き」 「――っと! ミクミクに当たったらどうするんだよ」 「五月蝿いよ馬鹿軍主。明日はマチルダだっけ? せいぜい頑張ってきなよ。僕は休んでるからさ」 「は? 何言ってるの? ルックも行くんだよ」 「はあ!? 聞いてないよそんなの!?」 「言ったの今だもん」 「最低」 「今日はゆっくり休もうねー」 「切り裂」 「それはもういいから!!」 天間星、ルック。運数値低し。 とりあえずマチルダから帰った日から某親子加入まで石版の前をうろつくピンクのムササビが発見されるようになり。 ルック、ムササビとお友達説、深まる。 END こんにちは。神崎です。 ムサ探し二作目。幻水小説としても二作目。どうなんでしょうか。シリーズにする予定は無かったのですがシリーズになりました。 ちなみに迎えに行くメンバー、見つかったタイミングはまたもや実話です。 うちのミクミクは中性的な人が大好きです。 |