剛毅木訥




 「今日こそメクメク仲間にするよルック!」
 「連日連日いい加減諦めなよ」
 「軍主命令! れっつごー」
 


 そんなわけでグリンヒル。
 「これで三日目だよ……」
 「マクマク、ミクミクは早かったのにね! じゃあさくさく歩こうか!」
 「だからなんでそんなにテンション高いのさ…」



 「いないねー」
 「だから諦めなって」
 「やだ。あーでも疲れたし。ここらで休もうか」
 歩き始めてはや数時間。朝早く出たのだが、太陽は頂点を過ぎ去った。
 言って手近な木の下にどっかりと座り込む。
 「ここらって……こんな森の中でかい」
 「戻るのめんどうだし。ルックも食べるー?」
 差し出されたのはダイエットランチ。
 一応受けとって、隣に座り込む。
 ぱか、と蓋をあけ、サラダを口にしながら横目で見ると、シュウユウが食べているのはオムライス。
 「……」
 「え、なに? ルックオムライスが良かった? ヘルシーな方がいいかなって思ったんだけど」
 「……別に」
 「そういえば、ルック、レストランで結構オムライス……」
 「五月蝿いよ」
 「ちょっと食べちゃったけど、交換する?」
 「……いい」
 「素直じゃないね。まあいいや。あ、さっき飲み物手に入ったよね。飲む?」
 「さっきって、あおじるだろ。いらないよ」
 ひいらぎこぞう原料の毒ステータスになるし。
 憮然として顔をそむけ、黙々とダイエットランチの制覇にかかる。
 「デザートもあるよ。赤アイスとナナミアイス。どっちがいい?」
 「そんなのどっちもいらないよ! そもそもアイスなんてどうやって持ってきたんだよ!」
 「えー贅沢―。いいよ両方とも僕食べるから」
 運搬方についてはコメントせず、べーっだ、とお子様よろしく舌を思いっきり突き出して早速赤アイスの蓋を開ける。
 「オムライス食べてからにしたら」
 「この場合美味しいのは最後」
 じゃあ最初からそんなの持ってくんな。
 半眼で口を開こうとした時、つんつん、と誰かに肩をつつかれる。
 「!?」
 目を見開くルック。
 隣に座るシュウユウの表情が歓喜に輝く。
 ということは。
 そっと視線を向けるとそこには。
 「ムーン」
 予想に違わず、ムササビがこちらを覗いていた。
 おそらくメクメクであるそのムササビは濃い緑のマントをぱたぱたとなびかせ、どこか暢気な表情で手を上げてくる。
 「……やあ」
 ムササビの表情が分かってしまうことに若干の虚しさを抱えながら軽く手をあげ応える。
 その時、横で異様な気配が膨れ上がった。
 気配の正体は無論半泣き状態のムササビ愛好家、シュウユウ。
 「やあ! 君がメクメクだよね! そうだよね! もぅすっごい探したよ!? でも会えてよかった、本当に嬉しいよ。ムクムクもマクマクもミクミクも待ってたよ! ちょっとルックとお揃いっぽくてムカつくけど緑のマント格好イイね。そうそう僕はシュウユウよろしくね。ああそうだお腹空いてない、このアイス食べるかい!?」
 「ちょっ、それはやめなよ!」
 息もつかせぬマシンガントークのまま、よりにもよってナナミアイスの方を差し出し思わずメクメクが受け取ったところで慌てたルックが上から蓋を押さえる。
 「あんた、このコに会うのは殺すためだったわけ」
 きっと睨み付けると、その言葉に驚いたメクメクがびくっとアイスを落す。
 「ム、ムーーン?」
 おそるおそる上目使いでシュウユウを見上げる。
 潤んだ視線に射貫かれ、うっと呻いたシュウユウがそっとメクメクの手をとる。
 「あ、ごめんね。ちょっとあんまり嬉しくて。お詫びにコレ」
 そして取り出すのは赤い物体。
 「それもマズイだろ」
 「えー赤アイスは美味しいよー」
 「あんただけだよ」
 「ルックはなんでもマズイだから」
 「とにかくやめろ」
 言い争いを始めたふたりと赤いアイスと落としてしまったアイスを見回して。
 困ったメクメクは決断した。
 「ムムー」
 シュウユウの膝によじ登り、食べかけのオムライスを指差す。
 「え、コレがいいの?」
 よじ登ってくれたことに狂喜しながらも、食べかけだよと首をかしげる。
 「ムー」
 「そう? じゃあハイ」
 皿とスプーンを渡すと、小さな手で器用に食べ始める。
 「ムーーン」
 「美味しい? よかった」
 その微笑ましい様子にでれーとしながら頷くシュウユウ。
 「……そもそも見つかったんだから、戻ればいいんじゃないの」
 ぼそり、と呟くルック。
 しかしそれにシュウユウはばっと振り向き
 「何いってんの!? 木陰の中、オムライスを食べるムササビ! この絵の美しさが分かんない!?」
 熱弁。
 それにルックはメクメクをじっとみつめ
 「…………………………まあ、好きにすれば」
 ちょっと分かってしまったらしい。



 「あ、シュウユウさん、ルックくんお帰りなさい〜。あ、メクメクちゃんみつかったのー?」
 「……ただいまビッキー」
 「あれ、どうしたのシュウユウさん? 嬉しくないの?」
 「いや、嬉しいよ? 嬉しいけどさ」
 ふてくされたその視線の先には。
 「ねえ、放してくれる」
 「ムーン……」
 ルックの法衣の裾を弄ぶメクメクの姿。
 「なんでルックばっかり……」
 じっとりと黴でも生えてきそうなその声に、ルックはふんと鼻で笑い
 「僕が教えて欲しいね」
 「次は負けない」
 「勝ち負けなわけ」
 「次回懐かれた方にはなんと一気に5ポイント」
 「意味分かんないんだけど」
 めらめらと瞳に闘志を燃やすシュウユウ。天魁星の名にかけて、とかなんとか呟いている。
 まずは情報収集だーと叫んで走り去っていった軍主の背中を見送り。
 ルックは何度目かも分からない溜息を深々と吐き、未だ離れないメクメクと一緒に石版の前へと戻って行った。
 「……また、噂が広まるな……」
 「ムーン?」
 「なんでもないよ……」
 さて、最後のムササビ、モクモクに気に入られるのは果たしてどちら?



                   END

メクメク編。出てくるタイミングはやっぱり実話……もっと早く会いたかったです……。










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