2,救世主






 「一体貴方は何度同じことを言われたら気がすむのですか?」
 「ああもう。ちょーっと買い物を忘れていただけじゃないか」
 「それしかしないのですから、それくらいはちゃんとしなさい」
 「そんな。他にも夜子供たちを寝かしつけたり、色々やっているよ」
 「……あ、いたバカトリ! え? なに怒られてンの?」
 「ああ、ちびっこまで来てしまった」
 「ちびっこって言うなってんだろ! バカトリ!」
 「だって実際君は小さいじゃないか。ねえ?」
 「こはなは子供です。小さいのは当たり前でしょう。くだらない事を言う前に貴方はもっと反省しなさい」
 「だって、絵が途中なんだ。せめてこの色が無くなるまで、もう少しぐらい待ってくれ給えよ」
 「そもそも、これはなんの絵なのです」
 「何って。見ての通り。あなただよ?」
 「……これが……?」
 「うわ。へたくそ」
 「おや失敬な。子供にはこのセンスが分からないのかな?」
 「白いけだまにしか見えない」
 「目や嘴なんかは後で上から描くんだよ。油絵は重ね塗りが出来るんだ。知らなかったのかい」
 「……兎に角、いいからお行きなさい」
 「もう店はしまっていると思うんだが」
 「お行きなさい」
 「……無駄足と分かってて行くのは流石に……」
 「……やっぱりけだまにしか見えない」
 「……こら、こはな! 一体何をしようとしているんだ! 筆を下ろしなさい! ああもうなんて酷いことを」
 「黒鷹。まだ私の話は終わってません」
 「いやだから、もう今から行ったところで店は開いて……ああ、黒はやめなさい黒は! ちょっと、あなたも止めてくれないか!?」
 「こはな」
 「うん」
 「思いっきりやりなさい」
 「はーい!」
 「ああああああ!? やめなさい! 折角の傑作の予感が!」
 「……なんだ、皆ここにいたのか。夕食が出来た」
 「あ、こくろ」
 「こはな、黒鷹たちを呼んできてくれっていっただろ。なにやってるんだ」
 「あ……ごめん」
 「……もういい。それで、ご飯が出来た」
 「もうそんな時間ですか。仕方ありません。行きますよ」
 「はーい。今日はなに?」
 「野菜炒めとサラダとおひたし」
 「うっ……」
 「残すなよ。 ……黒鷹、いつまでキャンパスにしがみついているんだ」
 「こくろ」
 「絵の具のついた手で抱きつくな」
 「例え冷たくても、ご飯が野菜ばかりでも、君は私の救世主だ……!」
 「……? じゃあ、残すなよ」
            

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