また、失敗だ。 あれほどの時間と手間を要して創りあげた箱庭は、やはりいつもと同じ様にあっさりと手のひらで割れる。 きらきらと綺麗に輝きながら破片が床に落ちていく。 それを、特に感慨もなく見つめ、ふと視線をあげるとそこにはやはり予想通り。 恐らくは無表情を気取っているのだろうが、その目に悲しみを宿して我を見る鳥がいる。 相手がどう取るかは構わず、唇の端を歪めてみる。 すると、不快そうに相手の眉が寄せられる。 全く、呆れる程、主に対して遠慮のない態度だ。 一つため息をつき、鳥に近寄り、覆い被さるようにもたれかかる。 鳥は何も言わず、ただ黙って我の身体が落ちぬよう、手をまわす。 やはり、また拗ねている。 「――次こそ――」 ただそれだけの我の呟きに、鳥もまた吐息をもらす。 まったくもって、失礼な奴だ。 「――少しは主を信頼せぬか」 顔をあげ、軽くねめつける。 「いえいえ、勿論、信頼しておりますよ。主よ」 薄く微笑みを浮かべ、鳥が答える。 鳥の作る偽りの笑顔の中で、我の最も嫌いな表情だった。 その微笑にも。声音にも。 きっと隠せていると思っているのであろう悲しみが滲んでいて。 我の嫌いな、表情だった。 この鳥は、普段は五月蝿いくらいによくしゃべるくせに、我が箱庭を潰すたびに、同じ表情になる。 もうこれで何度目だろう? その上、最近は普段でも瞳の奥にこの色を称えていることが多くなってきた。 創るのも、壊すのも、我だというに。 感受性を強くしすぎたのか。 この鳥は、ずっと永い間憂い続けている。 ああまったく。 腹が立つ。 「ふん……」 ぐいと両手を突き出し、鳥から離れる。 大人しく手を離す鳥。 「次で」 従順さを示したといってもいいその行動にも何故か気に食わないものを感じながら、我は告げる。 「次で?」 「次で、消す」 「……何を、ですか?」 本当に分かったのだろう、明らかに困惑の表情を浮かべ、首を傾げる。 「さあな」 それには答えず、白衣を翻し、背を向けて歩き出す。 「次の箱庭にとりかかるぞ、黒鷹」 「……はい」 不満げに頷くのが気配で分かる。 それにこっそり笑みが浮かぶのを自覚しながら我は歩き出す。 次で消してみせるよう。 恭順を知らぬ鳥の、永い永いかなしみを。 |