009.英雄譚






 「シュウユウ、楽しそうだね。何読んでるの?」
 「おータクトー。シュウからの課題ー」
 「ふうん?」
 「今回はハルモニア語の子供向けヒーローストーリー」
 「へえ。おもしろいのかい?」
 「ん。笑えるよ」
 「そう……そういえば、ハルモニア語、読めるようになったんだね」
 「いや」
 「……?」
 「知ってる話だから、なんとなくで読めるだろってシュウが」
 「……ああ、なるほど」
 「読んでみようか」
 「そうだね」
 「えー『その勇敢な少年は、鮮やかな緋色の服と、草原とその瞳の色を宿したラベンダーのバンダナをなびかせ』」
 「ちょっ! ちょっとまった!」
 「ん〜? なに〜? えっと『なびかせ、言いました』」
 「ちょ、その本、寄越して下さい! な、『世界の英雄譚〜トランの英雄〜』!?」
 「あはははははは、タクトその顔! いや、あの長髪も、たまには楽しい本よこすよな!」
 「……」
 「あ、その本、トランから出版で、何ヶ国語かに訳されてんだって」
 「な」
 「今度全部取り寄せようかなー。で、図書館に寄贈」
 「シュウユウ」
 「いやもう、お城に像がある人は違うね!」
 「……うん、なんだい、ソウル君。なになに? 長い黒髪の格好良いお兄さんが食べたいのかい? 随分とピンポイントだね、しょうがないなもう。じゃあいこうか」
 「って待てこら英雄!」
 「この下にそういえばそんな感じのいたから。ちょっと待ってねソウル君」
 「こらー! 人の軍師に手ェ出すなー!」
 「……なんだい、普段あれだけ言ってるくせに」
 「だから! 恨みつらみをこめて、殺るならこの手で!」
 「……ふーん」
 「……なんだよ」
 「……まあ、そういうことにしてあげるよ」
 「うわムカつく」
 「ともかく、この本は没収」
 「シュウに怒られんの僕なんだけど」
 「じゃあ、やっぱり腹どころか魂を割って話を……」
 「あー! もう分かった! もってけこのバカ英雄ー!」
 「ふふ。シュウユウ」
 「あんだよ」
 「君も、この戦に勝ったら、同じ道が待ってるよ……」
 「っ!?」
 「すでに、マルコ君だっけ? 書くって言ってたしね」
 「タクト」
 「何?」
 「英雄譚撲滅委員会とか作らない?」
 「無理」












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