他愛もない戦闘の終了後、いつものようにアルドがテッドに手をさしだす。 その手を無言のまま一瞬見、そして握る事も、話しかけることもなく、それどころかあからさまに身体ごと視線を逸らして拒絶するのもいつものこと。 それにアルドが小さい嘆息とともにうなだれるのも。 そして。 アルドは気づかないけど、これからきっと起こることもいつものこと。 「……なんだカイル。嬉しそうだな」 「ケネス。そう見える?」 「見える。でも、モンスターの死骸を選別しながら笑っているのは、ちょっと怖いぞ」 苦笑しながらのケネスの言葉に、僕も苦笑を返しながら首を振る。あ、この羽は使えそうだ。 「隣の羽もいいんじゃないか」 「そうだね」 二人身を屈めて羽を拾いながら、自分の身体に隠れるようにそっと指でテッドを指す。 「? なん」 ケネスが何か言いかけたところで今度は立てたままの指を口元に持ってきて、しーっ、と合図する。 「?」 疑問符を浮かべながらも黙ってくれるケネス。 そっとテッドを伺い見ると、屈んで何かを拾っているところ。 やっぱり。 また顔が笑うのを自覚する。 同じ様にケネスもテッドの方を見ているのを確認しながら見ていると、取り出した布で何かを拭きながら、さり気無くアルドに近寄り 「……ほら。お前のだろ」 そういって差し出したのは、想像通り、矢。 「あ、ありがとう! テッド君!」 本当に嬉しそうに笑い、大事そうに受け取るアルド。ちゃんと持ったのを確認して、何も言わずに去るテッド。 うん、やっぱり。 「ね?」 笑いかけると、ケネスは 「いや、ねって言われてもな……。カイルが何見て笑っていたのかはわかったけど。よく分かったな、あいつがアルドの矢を探していたの」 「うん。いつも通りだから」 「いつも通り?」 素材回収も終わり、ブリッチの清掃の邪魔にならないよう船内へ移動しながら説明する。 「うん。あのね、握手求められても、絶対に握り返すことはないんだけど、その代わりなのかな? 必ずその時はまだ使えるのがないか、アルドの矢を探して渡すんだよ」 本人たちには内緒だよ、と笑うと、ケネスも笑いながら 「なるほどな。しかし、素直じゃないなテッドも。俺、あまり話したことなかったし、いっつもつんつんしている所しか見ていなかったから、もっと見た目通りひねくれていると思ってたが、可愛い所あるんだな」 うんうんと頷くケネスに、おやじっぽいよと言ったら殴られた。 「痛い……」 「自業自得って知ってるか?」 「でも痛いよ」 「ああもう悪かったな。 ……でもカイル、本当、昔から他人を良く見てるよな」 「そう?」 まあ、小さい時から小間使いをやっていれば、誰でもそうなると思うけど、それは言わないでおく。 「ああ。それもまた、リーダーの素質の一つかな?」 「よしてよ」 「照れるなよ。 ……今度、テッドに話しかけてみようかな」 「うん、無視されるだろうけど、頑張って」 「おいおい。やる気なくすようなこと言うなよ」 「だって。僕も最初は全然話しかけても『俺にかまうな』しか言ってくれないし、それすら言われない人もいるんだよ」 「まじか」 「うん。でも、今は少しは話してくれるよ」 「……なんだか獣を慣らすみたいな感じだな」 げんなりと呟くケネス。でも、悪い意味で言ってないからよし。 「あはは。でもまあ、冷たいのは全部ポーズだと思うから。本当は優しいよ」 「矢を拾ってやるくらい?」 「はははは。うん。そう。分厚くて頑丈そうな仮面だけど、頑張って剥ごう?」 「そうだな」 「誰が最初に素顔を見れるかな?」 「……何を話しているんだ」 笑いあっていると、後から唐突に声をかけられた。うわびっくり。 「あ、テッド。仮面の話」 僕の言葉にケネスも頷いて 「ああ。お前も混ざるか?」 なんて言いだす。 「……いい。急いでいる、そこをどいてくれ」 あ。 歩き歩いて、いつの間にかエレベーター前を占領していた。 「ごめん」 「……」 身体をどかすと、黙ったまま丁度来ていたエレベーターに乗り込むテッド。 そのまま扉が閉じ、機動音と共に下がっていく。 「……」 「……」 黙って顔を見合す僕ら。 そこへ 「テッドくーん! あ、カイルさん、ケネス君、テッド君みませんでした?」 「ああ、丁度今」 「下にエレベーターで」 二人で指を下に向けながら答えると、ありがとうございますと頷いて、勢いよく階段を下りていった。 「……」 「……」 再び見つめあう。 そして 『……ぷ』 同時に噴出し、あははははと笑う。 何事かとリノさんが出てきたけど気にしない。 うん。頑張って仮面を脱がそう! |