ねこ〜出張版〜
昼食の時間、食事を済まして部屋へ帰ると寝台にセレンと白と黒の猫が二匹寝ていた。
「・・・・・・」
一瞬、部屋を間違えたのかと思い無言のまま部屋から出て確認する。
「・・・俺の部屋」
ポツリと呟くと再びドアを開ける。が、やっぱり其処には眠るセレンと猫二匹。
健やかな寝息を立て気持ちよさそうに眠っている。
黙っていれば何とやら。
枕元に二匹寄り添って眠る猫二匹のオプションも付き更に和やかさに輪を掛ける。
暫くじっと見ていたテッドだが徐ろにベッドに近づくと、小腹が空いたときに食べるよう先ほど買ってきたばかりのカニ入り肉まんを一個、袋から取り出した。
ちょうど出来たてだったので未だに熱い。
包み紙を取り払ったそれを何の躊躇もなく、セレンの頭に乗せた。
一、二、三と胸中で暢気に数え観察するテッド。
「・・・?・・あっつ!!!??」
流石にセレンも飛び起きた。
頭から転げ落ちるカニ入り肉まん。
「うぁ?何??」
寝起きの上にあまりに不可解な起こされ方だった為、珍しく狼狽しながら辺りを見回すと目に入るは傍らに鎮座するカニ入り肉まん。
「まんじゅう?」
小首を傾げ拾う。暫くじっと見た後にこーと笑った。
「頂きます」
「食うのかよ!!」
沈黙のまま動向を見ていたテッドだが思わず突っこむ。
「ん?あー、おはよ、テッド」
突っこまれつつも「カニ入り肉まんだ♪」などと呟きながらしっかり食べている。
「おはよじゃねぇ!!何でお前が俺の部屋で寝てんだ!!」
叫ぶテッドにセレンは唸りながら考える素振りをしつつ更にカニ入り肉まんを食べ進める。
「ってか食うの止めろよ!!」
「え、だって温かい内に食べないと」
「根本的に拾った物を食うな!!」
「美味しそうだし」
最後の一かけを口に放り込み良く味わうと飲み込む。
「ごちそうさま?」
そう言いつつ、テッドの持つ袋へとセレンの視線が注がれる。
「やらんぞ」
セレンの視線から袋を遮る。
「ダメ?」
人差し指を口に当て、哀しそうな表情でテッドに言う。
「うっ・・ダメだ!」
一瞬、感じなくても良い罪悪感が湧き上がるがきっぱり拒否する。
尚も哀しそうにテッドを見つめるセレン。
「・・・・・」
「・・・・・」
にゃー。
その無言の押収の間、テッドの叫びで目を覚ました 二匹の猫。
黒猫が鳴く。
思わず視線を黒猫に移すと訴えるようにテッドを見ている。
にゃあ。
今度は白猫が鳴く。厭な予感を感じつつ、白猫にも視線をやると案の定訴える視線。
再びセレンへと視線を移す。
相変わらず黙っていればお綺麗な顔に悲哀に満ちた表情を浮かべテッドを見つめていた。
(端から見たら俺が悪者か?)
何となくというかもの凄く納得行かないテッド。
セレン一人なら何とかできた(と思いたい)テッドだが、猫二匹の訴えまで加わると何故か自分が極悪人に感じてしまう。
無言で訴える三対の目。
「・・・・・だー!!!」
無言の圧力に耐えられなくなったテッド。
叫んだかと思うとセレンへカニ入り肉まんの入った袋をぶん投げた。
「・・・・・・・」
投げられた袋を難なく受け止めると暫く袋をじっと見つめる。そして顔を上げるとにっこりそれは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう」
にこにこしたまま袋から一個取り出すと包み紙を器用に胡座を掻いた膝の辺りに乗せカニ入り肉まんを細かく千切りだした。
訝しげにセレンの行動をただ見るテッド。
半分ほど千切り終えると惜しみなく笑顔を浮かべ二匹の猫へと話しかける。
「ネコ、ニャンコお前達のお陰で手に入ったよ。お食べ♪」
にゃー。
にゃあ。
二匹一緒に鳴くとセレンの膝の上の包み紙の千切られたカニ入り肉まんを食べ始めた。
残り半分のカニ入り肉まんをセレンも食べる。
複雑な表情でセレンと二匹の猫の食事を見守るテッド。
セレンは食べ終わると更にごそごそ袋から二個取り出すと一個テッドへと渡す。
素直に受け取るテッド。自分が買ってきた物を拒否する謂われはない。
無言で包み紙を開き食べ始める。セレンもそれに倣い食べ始めた。
奇妙な空気の中時折かさりと紙が鳴る音が続く。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ今度は疑問系でなくしっかりと言う。
続けて食べ終わったテッド。一息つくと口を開いた。
「てか何でお前、此処で寝てたんだ?」
いつもながら本題が後回しになるセレンとテッド。
セレンは猫の食べ終わった紙を片づける。
猫たちも先ほどの定位置に戻りまた寝入る体勢に入る。
「んー、お昼テッドと食べようかと思ったらテッド部屋に居なくて待ってたらいつの間にか寝てた」
「いつの間にか寝るな。お前アホだろ」
間髪入れずテッドは半眼で言い切る。
いつぞやの夜にも似たような理由で甲板で寝ていた前科がある。
「此処はヒドイといって咽び泣くべきかそうだと言って開き直るべきか」
他人事のように呟くセレン。
「どっちでもいいや」
「・・・・・・・」
このクソ餓鬼とでも言いたそうな表情でセレンを見るテッド。
セレンの方はそんな視線にも気にした様子もなく欠伸をする。
「うー、お腹減った」
「お前、人のもん盗っておいて何言ってやがる。寝言は寝て言え。というか寝てても言うな」
「えーだってお昼食べて無いし?それに盗っただなんて人聞きの悪い。恵んで貰ったんだよ?」
きらきらと輝くような嘘くさい笑顔。
余りの嘘くささに目眩を覚える。
いっそ卒倒してしまえればどんなに楽か。
「あはは、いいじゃん今度何か奢るからさ。何が良い?」
「腹一杯の人間に訊くな」
「何でも良いからさ、俺に付き合って?」
「断る」
力一杯拒否の言葉吐くテッド。
セレンの目が細められる。余りテッドにとって良くない兆候である。
「へぇー・・・いいの?」
にやーと口元を歪め静かに言う。
「何がだ」
「付き合ってくれないとテッドが俺の寝込み襲ったって言いふらすよ?」
誰もが見惚れるような笑顔でありがたくないことをのたまう。
「なっっ!!、ふざ・・・!!」
「別にふざけてないよ?強ち全部無実無根でもないだろ?」
同じ笑顔のまま言う。
「てかどうしたらアレが『寝込み襲った』になるんだ!!!」
「さぁ?だけど事実と真実は必ずしも一緒とは限らないんだよ?最終的に信用されるのはその人の人間性だからね」
「・・・・・っっ!!」
苦虫を噛みつぶしたような表情で言葉に詰まる。
日頃の自分の態度が周りから快く思われていないことなど百も承知である。
というよりもそうなるよう仕向けてきたのだから当たり前と言えば当たり前だが。
いくらテッドの目には性格破綻の変人に映ろうとも周りから見ればこの船の有能船長であり、軍主のセレン。
テッドとセレンの言葉どちらを採るかと言えば考えるまでもない。
しかも結構芝居気のあるセレンである。それは見事に演じきるだろう。
「ああ、あと船から降りるってのも無しね。俺、降ろす気無いし?」
「・・・・・・・」
ぐうの音も出ないとは正にこのことである。
有言実行とはこいつの為にあるんじゃないかと思えるほど言ったことは速やかに実行するセレン。この船から降ろさないと言ったからには四六時中テッドに張り付いてでも降ろさないだろう。
「・・・マグロ」
「ん?」
唐突に呟かれたテッドの言葉に思わず訊き返す。
「マグロ。それ以外は認めない」
憮然と言うテッド。
「わかった」
セレンは破顔して承諾の言葉を言った。
「ふふ〜ん、そんじゃ楽しみにしててね?」
勢いをつけて寝台から立ち上がるセレン。
寝入っている様に見えた猫たちが顔を上げると黒猫の方だけセレンに続く。
「それじゃ、テッドニャンコよろしく」
そう言うと至極あっさりとテッドの部屋を後にした。
「・・・・・・・・」
静かになった途端どっと疲れるテッド。倒れ込むよう俯せに寝台へと寝る。
にゃあ。
白猫が鳴く。
そちらへ視線をやるとご苦労様とでも言うようにたしっと前足をテッドの額へ軽く乗せると身体を丸め寝に入った。一瞬、ぽかんとするが自然と苦笑が漏れるのだった。
今晩和、神崎理奈です!
「水ノ微睡」のリベザル様から、サイト開設祝いをいただいてしまいましたvv
それも、以前に私がネコのお話にラブコールしたのを覚えてくださっていて、わざわざ書いて下さったのですよ! なんてお優しいお方なのでしょう! ネコ大好きです! もう、本当にありがとうございましたvv
*宝物庫へ*