「やあ若輩君。御機嫌よう」 「……こはなはここにはいないぞ」 「うん、知っているよ」 「では黒の鳥が俺になんのようだ」 「若輩君、親子とは不思議なものだねぇ」 「……なんだ突然」 「実はここだけの話なんだがね、玄冬はまったくもって生みのご両親そっくりでね。優柔不断さとかいざという時の決断力とか」 「……ふむ……?」 「ちびっこは……よくは知らないんだけどね。とにかく、世の中には似ている親子と似ていない親子がいるわけで」 「……ああ、そうだな……?」 「ところで、君は父君にはちっとも似ていないね」 「!?」 「実はここに来る前にちょっと好奇心が沸いてね。君の家に行ったんだ。いやあ、流石初代救世主の家系。豪邸だね」 「き、貴様……!?」 「はっはっは、落ち着きたまえ。別に何も悪さなんかしていないよ? それで、灰名殿に会ったのだが、いやいや、なかなかどうして君の父君とは思えない傑物だね」 「当然だ、父上が軍役に就かれていた頃はそれはもう……っと、貴様、今さりげなく俺を馬鹿にしなかったか?」 「ははははは。漬物までご馳走になってしまったよ。私は野菜が嫌いだといったのだが、いやはやアレは美味しかったな」 「当たり前だ。父上は我が家で一番漬物を漬けられるのが上手い」 「若輩君も頑張り給え」 「無論、日々精進している……それより貴様、いい加減にその不愉快な呼び名はやめろ」 「そうかい? 若輩君は若輩君らしくていいと思うのだが……そうだね、父君にあまり息子を虐めるなと言われたばかりだし、うん、今日だけは銀朱隊長と呼んであげよう! どうだい、嬉しいだろう銀朱隊長!」 「そんなわけあるかッ! き、貴様、一体父に何を話した……!?」 「おやおや。部屋の中で剣なんか抜くものじゃないよ若……銀朱隊長。心配しなくても、大したことは。皆で魔王ゴッコをしている時の話とか、平和なものだよ」 「貴様ぁ!? よくもそんなことを!」 「ハハハハハハー。父君には好評だったよ? あの子は自分にそんな話はしてくれないって言いながら笑っておられた」 「……本当か?」 「遊ぶ時間はもっぱら勤務時間、といったらまた別の笑みを浮かべていたけどね」 「ッ! き、貴様……よくも……」 「ああそうそう。ところで私がわざわざ若輩君の所に来た理由なのだが。父君に頼まれてね。はい、確かに渡したよ」 「……こ、これは……?」 「おやつみたいだけど。確か何かカードを書いていたかな。それじゃあ、私はこれで失敬するよ! 御機嫌よう!」 「ちょ、きさ、待て…………! ……本当に、逃げるのはとてつもなく早いな……どれどれ、ああパウンドケーキと……『今夜、帰ったら私のところに来なさい 灰名』……」 真っ青な顔で書類に勤しむ銀朱を文官が見るのはこの数分後。 灰名は、ああみえて厳しいところがあるそうです。(公式) |