ほとんど何も考えないまま、手を振るう。 思考はいらない。身体が覚えているから。 朱色に染まる視界。 でも何も考えない。 何か考えてはいけない。 誰かが何かを叫ぶ。 その音は耳に入る。 でも、それは声として、言葉として僕の耳には入らない。 だって、何も考えてはいけないから。 今はただ、手を動かすだけ。 嫌になる位手に馴染む柄が、刃から伝わった血で、切り裂いたその時の返り血で滑ってきた。 まずいか? まだ大丈夫か。 また、誰かが何かを叫びながら僕に向かってくる。 目に恐怖を宿らせながら、両手で剣を振りかざし。 そして、僕に斬られる。 その顔は、見たことがあると記憶の片隅が言っている。かつて言葉を交わした相手だと。 でもそんなのは関係ない。 だって何も考えないんだもの。 周りを見回し、誰も動くものがいないのを確認して、倒れただれかの服で刃と柄の血をぬぐう。 刃こぼれが酷くないかみて。 うん、大丈夫。 さあ、次へ行こう。 早く皆のところへ行き。 そして刃を振るおう。 僕たちだけが知っている競争だ。 世界が終わるのが先か。 僕が人を殺しつくすのが先か。 どちらにしても、世界は終わるけど。 でも、もうそれしか残されていないというのなら。 君が僕をとめないのなら、もう、僕の望みは君だけは殺さないことだから。 さあ、次へ行こう。 お残しは、許しません。 |