13,森のくまさん





   ――たったったった
 軽やかな足音が近づいてくるのを感じ、銀朱は走らせていたペンを止め、まずはインクの蓋をきっちりとしめ、そのまま黙って重要書類等をしまい始める。
 眉間に皺を寄せた銀朱に一切構う事なく足音は着実に近づいてきて――バン、とノックもなく勢い良く扉が開かれると同時に
 「隊長ー。元気ー?」
 「……廊下を走るなといつも言っているだろう」
 来訪者たる救世主と銀朱、同時に口を開く。
 溜息交じりの注意に救世主は一切留意する様子もなく、つかつかと満足気に笑いながら銀朱に歩み寄ると
 「あーウン元気だね。じゃあ行こうか!」
 あっさりと言って無理矢理銀朱の腕を掴み、立たせようとする。
 いつもといえばいつもの狂行に、さりとて一体何をするかも分からない事に同意するわけにもいかない銀朱は椅子が倒れないよう仕方なく立ち上がりながら抵抗を試みる。
 「な、こら救世主貴様何をする!」
 「山登り山登り。大丈夫。帰りは一瞬だからサ」
 色々な意味にとれる便利な銀朱の質問に、一応の返事を返しながら立った今が好機とばかりにずるずると引きずって部屋を出ようとする。
 ほぼ同等の体格にもかかわらず容赦なく引きずられる銀朱は慌てて壁に固定した本棚を握りながら、このままでは何だか良く分からないことになし崩しに連れて行かれると悟り、更なる説明と説得を試みる。
   「何をわけのわからないことを言っているんだ貴様は!? 俺には執務が……!」
 「俺さー。くまさんとはやっぱ合わないって思うんだけど、そんなに嫌いでもないみたい」
 「くま!? 何を言ってるんだ?」
 「くれば分かるってー」
 「こら、腕を放さんか……引きずるなー!」
 説得失敗。
 本棚をしっかりと握ったはずの腕はいつの間にか外され、やはり事情も目的も良く分からないままに救世主に拉致同然に連れ去られた。


 「……」
 「ヤー丁度良かったよ黒鷹サン。まさか偶然あんなところで会えるなんて! やっぱ俺って運いいよねー」
 「はっはっは。絵の具が切れていたのを思い出してね。あの店は中々品揃えがいいし、ついでだから君たちのお城にでもお邪魔しようかと思っていたのだよ」
 「……」
 「お城ってゆーか、あの人、でしょ」
 「んー? さてねぇ。あの人に会っても怒られるだけだしね」
 「……」
 「まったまたー。怒られたいクセに」
 「はははははははは、何をいってるのかな。しかし君が若輩君を引きずってるのを見た時は笑ったよ。全く、あんな大声で道を歩いて恥ずかしくないのかい? しかも若輩君は軍服姿」
 「…………」
 「あーもー何いつまでも拗ねてンの。いいじゃん、行きも一瞬で済んだんだから」
 「そうそう。折角執務をサボって遊びに来たのなら、そんな辛気臭い顔は止め給えよ」
 「――ッ! 俺は! サボりたくてサボったのではない!」
 にこにこと楽しそうに黒鷹と救世主が会話をする中、一人俯いて肩を震わせていた銀朱がついに爆発したかのように叫びだした。
 すると、合わせたかのように二人同時におお、と両手を顔の横に上げたあからさまな驚きのポーズをとりつつ
 「やだなー隊長。黙ってたと思ったらいきなり叫ぶなんて、なんだかイタイ人みたいだよ?」
 「そうだよ若輩君。それに、周りの罪のない小鳥さん達が驚くから大声はよしてくれ給えよ。可哀想だろう?」
 「貴様等……!」
 余裕で人を食った態度を取り続ける二人に、しかし声は押し殺してぎん、と睨みつける。
 が
 「ところで黒鷹サン、なんでまずこんな敷地外なワケ? 別に偵察しに来たわけじゃないんだけど」
 「ん? ああ、それは君達だけで入った方がいいんじゃないかって思ってね」
 あっさりと無視をされる。
 銀朱の額に青筋が浮かんだのを見ていないようできっちり見ている二人はそのまま森の道が開ける一歩手前で木々にもたれ掛かりながら
 「なんか怪しいなァー。ねー、さては黒鷹サン、またアレの事で喧嘩したの?」
 「……だから私は鷹なんだよ。君だって、私の側だろう?」
 「まあそれはそうなんだけどねー」
 どことなく不貞腐れたようにそっぽ向く黒鷹に、救世主が苦笑しながら頷く。
 すると、言葉尻だけを捕らえた銀朱が
 「なっ、待て救世主、貴様黒の鳥側とはどういうことだ!?」
 何をどう勘違いしたのか、驚愕に目を見開き凝視する。
 そのまま掴みかからない勢いの銀朱を一瞬きょとん、とした目で見た救世主は次の瞬間爆笑し
 「アハハハハハハ! 違う、違うよ隊長! 俺はあの人の味方だって。じゃなくて、俺が言ってるのは肉党ってこと!」
 珍しく誤解を利用した悪ふざけをせずに正直に告白する。
 「わざわざ家の外に転移させてくれたのは、きっと朝食に野菜嫌いの黒鷹サンがそのことで喧嘩したからでショって話だよ。もうバッカだなあ」
 「ば、バカは余計だバカは!」
 勘違いに気付き、若干赤くなる銀朱。
 「うん、じゃあそういうことで私はまたちょっと出かけるから大君、健康面以外が少々弱いというか悪い若輩君、遠慮なく入ってゆっくりしていき給え」
 騒がしくなってきたことで玄冬が顔を出さないか心配だったのだろう。
 先ほどからちらちらと扉の方を伺っていた黒鷹が出し抜けにそう告げると、また大きく口を開けた銀朱が何か言葉を発するより早くその姿を消す。
 「やー。流石黒鷹サンは速いなぁ」
 「く……おのれ……」
 先ほどまで黒鷹がいた空間を見つめながら感心したように頷く救世主、歯軋りする銀朱。
 数秒ほどそうして、やおらぱん、と救世主が手を打ちながら
 「さて。じゃ、行こうか?」
 顎で玄冬達の家を指しながら歩き出す。他に行きようもないので仕方なく後ろについていきながら銀朱がところで、と尋ねる
 「目的地は分かったが……目的が分からん。玄冬を訪れてどうするというのだ? まさか、『救世主』の使命を果たすわけでもあるまい」
 「んなわけないじゃん。お菓子とお茶とご飯ご馳走になるだけだよ」
 訝しげな銀朱に呆れかえった視線を流す救世主。しかし、その発言にますます銀朱は困惑したように
 「…………待て。それだけか?」
 「ウン」
 「……それだけの為に、執務中の俺を強引に連れ出した挙句、何日もかけてこんな群の山奥まで来るつもりだった、と?」
 「ソウ」
 「――っざけるな! そんな下らん事で俺の公務を妨害等と……貴様、悪戯けにもほどがあるぞ! 第一、あの玄冬がそんな……花白でもない救世主と、この俺……第三兵団隊長銀朱をそんな快く迎え入れる筈がないだろう!」
 「あー、それは大丈夫だと思うよ」
 激昂する銀朱に、指で示したその先には。
 いい加減家の目の前だと言うのに賑やかな二人を若干呆れたような目で見ている玄冬が扉を開いて待っていた。


 「あれだけ騒げば喉が渇いただろう、とりあえずこれでも飲んでてくれ」
 どこか挑発的な笑顔の救世主と、どこか気まずげな銀朱に、よく来たな、とりあえず入ってくれ、と軽く手招きをし、飲みやすいようにとの配慮か、お茶ではなくまずはジュースを出す。
 大人しく席に座った二人が受け取ったのを確認して、今茶菓子を用意すると言ってなんの警戒心もなく恐らくは台所がある方へと部屋を出て行く。
 それをなんとはなしに見送りながら
 「ね、心配なかったでショ?」
 「あ、ああ……しかし随分くつろいでいるな。ひょっとして何度も来ているのか?」
 「いや、昨日が初めてで今日で二回目だ」
 がちゃり。
 意外そうな銀朱の質問に答えたのは別の部屋から出てきたこくろだった。
 「よく来たな。ゆっくりしていってくれ」
 どこから見ても幼い外見にそぐわない落ち着いた声でそう言うと、よ、とテーブルにある4脚の椅子の内、銀朱の向かいの席に座る。
 そしてちょっと迷うような仕草で小首を傾げると
 「昨日の今日でここまでこれるってことは……白梟に送ってもらったのか? それとも……」
 「ウーン鋭いね君。ちっちゃい俺とは大違いだ」
 「そうか……やっぱり黒鷹か……あいつ、またそっちでめいわくかけてるのか? でももんくなら本人に言ってほしいぞ。たぶんむだだけど」
 言外に黒鷹と告げる救世主に、子供とは思えない哀愁を漂わせながら深々と溜息を吐き、この部屋で最も哀愁を漂わさせている銀朱に目を向ける。
 「いや、そういうわけではないが……」
 「アッハッハ、たんに隊長を連れて遊びに来ただけだよ。昨日また来いって言ったでしょ? 俺って素直だからさ」
 「それで次の日の来るあたりがいい性格だけどな。でもゆっくりしていけ」
 「ウンそうする」
 がちゃり。
 「待たせたな……なんだ、こくろと話していたのか」
 「あー来た来た。くまさん、それなにー?」
 「かぼちゃパイだ。 ……食えるか?」
 「はー。くまさん何でも作るねー。ウン、それは食べれる」
 「子供にはおやつもなるべく栄養価があるものが望ましいからな」
 「おれはそこまで幼くないし、そもそもでかくなることはしょうめいされているぞ」
 「あっはっは。やっぱそういう会話になるよね。うちでもさ、よくひよこの俺がその内大きくなるだろー! って叫んでるよ。」
 「ふうん。どこでも同じなんだな」
 「……いや、それはお前らのところだけだと思うが」
 「ああ、あんたようやくしゃべったな」
 ぼそりと呟く銀朱に、玄冬が薄い笑みを向ける。
 「隊長照れ屋サンだから」
 「なるほど」
 「誰が照れ屋だ! そして納得するな!」
 「なんだあんた。黙ってたと思ったら急に饒舌になったな」
 「な……」
 絶句する銀朱に全く気にせず取り分けた皿を押しやりながら
 「あんたもかぼちゃパイ食えるよな?」
 「当然だ。俺に好き嫌いはない」
 「ウソツキ。果物が嫌いなんだよね」
 「………………少々忘れていただけだ。それに、苦手といっても酸味のあるものだけだ」
 「とにかくやっぱり好ききらいがあるんじゃないか」
 「こくろ。一応お客様だぞ」
 「……貴様等な……第一、そういうお前に好き嫌いはないのか。苦手なものはないというのか!?」
 「タイチョー大人気ないよー」
 もっともな意見を無視してテーブル越しにこくろに迫る銀朱。こくろはそんな銀朱の目を真っ直ぐに見てきっぱりと
 「ある。食べられないものはきらいだ。毒草とか」
 言い切る。
 「……………………好きなものは?」
 「食べられるもの」
 「……………………ちなみに、玄冬お前は」
 「好きなものも嫌いなモノもないが、確かにそう言われると食べれないものは俺も嫌いだな」
 「…………………………俺が悪かった」
 がっくりと項垂れる銀朱。
 その肩にぽん、と手を置きつつ
 「いや、その程度の偏食ならまだましな方だ……緑の全てを拒絶するような度し難い奴も残念な事にこの世界には存在するからな……!」
 ぎりぎりと歯を鳴らしながら唸るように言う玄冬。自然と肩に置かれた手に力がこもってきているが、なんとなく指摘したら負けのような気がして黙っている銀朱。
 「そういえばくまさん、俺たちその度し難い黒鷹サンに送ってもらったんだけど」
 「何!? あいつ、そんなところまで逃げたのか!? ……まあ、どうせ晩飯までには戻るだろうから帰りは心配しなくていいぞ」
 「ああ、いつものことだからな」
 並々と紅茶の入ったカップを傾けつつうんうん頷くこくろ。
 「さて、じゃあ今日もゆっくりしていけ」
 

 がちゃり。
 「ヤアただいま帰ったよ!」
 「ああ、おかえり」
 「思ったより早かったネ黒鷹サン」
 「……邪魔してる」
 夕方遅く。なにやら手に大きな紙袋を抱えて帰ってきた黒鷹に次々に声をかける救世主、こくろ、銀朱。それらには笑顔で答えておきながらそっと黙したままの玄冬の方を見ると
 「………………おかえり。とりあえず今日は客がいるからな。今晩は残さない事を条件に赦してやる」
 「……それはどうも」
 苦笑しながら紙袋をテーブルに置き、中身を次々と取り出す。
 レモン、オレンジ、はっさく、グレープフルーツ、シークヮーサー、ベルガモット、いよかん、みかん。
 見事に全てが柑橘系の果物だった。
 やたらと暖色に彩られたテーブルを眺めながら満足気に黒鷹は笑いつつ
 「いやあ、こうさっぱりしたものが食べたくなってね! お客様もいることだし、食後のデザートには丁度いいだろう?」
 爽やかに胸を張る。
 「ところで若輩君、どうかしたかい? 顔色が優れないようだが、また大君に締められたのかい?」
 「やだなー黒鷹サン。そんなことしてないよ今日は」
 「うんそうかい? さて、じゃあ早速だが玄冬! 私はお腹が空いたよ、少々早いが食事にしないか?」
 「分かった。こくろ」
 「ああ、手伝う……あ、黒鷹。いす足りないから運んでおいてくれ」
 「了解」
 「手を洗うのも忘れちゃ駄目だよー?」
 「ははははは、いやだな大君は。分かってるよ。さてじゃあ私の部屋から運ぶかな」
 果物の酸味に弱い銀朱が引きつった顔で柑橘類を見ているのを尻目に、自分から尋ねておいて返答をもらわないまま姿を消す黒鷹。
 知っているはずの両玄冬も何も言わずにそのまま軽く手を上げて台所へと去っていった。
 「……隊長」
 「なんだ……」
 「食べるの? コレ」
 「…………出されたものは、食べるのが礼儀だろう。ましてや黒の鳥相手に、苦手だからと言おうものならそれこそ何を言われるのか分からないしな」
 「ふぅーん」
 「……苦手なだけで、食べられないわけではないしな……」
 「俺だったら、嫌いなものは誰に出されようが食べないけどねー」


 「さて諸君! デザートにしようか!」
 お客様効果で驚くほど野菜の少なかった夕食が終わり、綺麗に切りそろえられた柑橘類フルーツを目の前に手を広げて高々と黒鷹が宣言する。
 「いっただきマース」
 意気揚々とみずみずしいオレンジに手を伸ばす救世主。
 「ああ、どんどん食べ給え! さあ、若輩君も遠慮はいらないよ!」
 「あ、ああ……」
 促され、なるべく一番小さいオレンジをさり気無く選ぶ銀朱。にこやかに見つめる黒鷹。
 そこで
 「そこまででいい」
 玄冬がオレンジを摘んだ手を上から押さえる。
 動揺しながらも安堵が見え隠れする銀朱に悪い、と軽く頭を下げてから
 「黒鷹。お前ワザとやってるだろう」
 ぐい、と90度首を回転させて黒鷹を睨みつける。
 「おや、バレてしまったか。というか君たちまで若輩君の苦手な食べ物を知っているとは思わなかったよ。大君は知ってても協力してくれそうだけど」
 「お前はわざとらしいんだ」
 こくろも呆れたように言いながら席を立つ。
 「悪い。昨日の残りだったんだが、ホウレンソウケーキでいいか? 一応甘いぞ」
 「あ、ああ」
 「いや、こっちが悪いから」
 言ってとことこと台所へと去っていく。
 そんなこくろをつまらなそうに眺めながら
 「やれやれ。いい見世物になると思ったんだけどねぇ……」
 ひどく残念そうに呟く黒鷹の頭を、無言のまま玄冬が軽く叩いた。


 「さて、じゃあそろそろ送るよ」
 「丁寧にお願いシマス」
 「はいはい」
 「じゃあな、また来い」
 「またこい」
 「ああ、その、邪魔したな……」
 「はいじゃあ跳ぶよ」


 「はい到着」
 「ありがと黒鷹サン」
 「……口惜しいが礼を言おう。時間が短縮されたのは確かだ」
 一瞬の浮遊感の後、ついたのはご丁寧にも銀朱の執務室だった。
 「いやいや。またいつでも来給えよ。なんなら日時を教えてくれればまた迎えに来てあげるよ?」
 「あ、ホント? じゃあまたてきとーな時に来てよ」
 「やれやれ。随分と曖昧だね。まあ分かったよ……若輩君、何をやっているんだい?」
 いつの間にか椅子に座り、机の引き出しから書類と判子を取り出している銀朱。
 そのまま慣れた手つきで判を押しながら
 「不当に出てしまったからな。業務が滞っていることだろう。こうなったら少しでも今夜中に片付けてしまわなくては……!」
 「……ネェ。まさか今日そのままここに泊まるなんて言わないよね?」
 「無論そのつもりだ」
 つまりは泊まる、という意味である。
 「信じらんなーい」
 やれやれと肩をすくめる救世主。黒鷹も、まるで化け物でも見るかのような目で黙々と作業をする銀朱を見ていたが
 「……お酒を飲まなかった理由が分かったよ……まあ、私はこれで帰るから後は好きにしてくれ給え。お休み」
 「ああ、お休みなさい黒鷹サン」
 「……ふん、ではな」
 にっこりと片手を上げた状態で消える黒鷹。救世主だけがそれを見送り
 「あーいっちゃった。ね、楽しかったでしょ隊長?」
 「……まあ、本来公務中でなければな。それに、やはり俺はあの黒の鳥はいけ好かん」
 手は止めないままに渋面で答える銀朱。想像通りの返答に救世主はくすくすと笑いつつ
 「いやーでも黒鷹サンも優しいよ? 隊長、今疲れてないよね?」
 「? ああ、まあ疲れてないが、それがどうかしたか?」
 「んー別に? まあ隊長の分は黒鷹サン持ちってこと」
 「……意味が分からん」
 「アッハッハ。でさ。くまさんどうだった?」
 「玄冬か……まあ、普通の……まあ、そうだな」
 「何がそうだなのか分かんないけど、まあじゃあまた行こうね」
 「なっ貴様また……! 俺には公務があると言ってるだろう! 一人でいけ!」
 「ヤダ。 ――さーて、じゃ俺帰って寝るから。おやすみー」
 「こら! 救世主、まて貴様話を……!」


 「ただいま」
 「おかえり」
 「お帰り」
 「けっきょく、今日も遊びに来ただけだったのか?」
 不思議そうに尋ねるこくろに黒鷹は笑顔で頷きつつ
 「そういうことだね。こくろは彼らが嫌いかい?」
 逆に尋ねるとこくろは直ぐに首を振り
 「うるさいけど、きらいじゃない」
 「俺たちは五月蝿いのはお前で慣れてるしな」
 「そうか。それじゃあ今度は好きな時に迎えに来いと言われたんだけどね。いつがいいと思う?」
 悪戯っぽい顔で問いかける黒鷹に、二人の玄冬は一瞬顔を合わせ
   『明日』
 「はははははは、やはりそうだよね! よし、じゃあ明日は朝から行ってあげよう!」
 期待通りの要求に張り切る黒鷹。二人の玄冬もまた
 「よしこくろ。今から昼食の下ごしらえをするか」
 「ああ」
 袖まくりをしつつ早速メニューについて話し合いながら台所へと去っていく。
 「野菜は少なめいやむしろなくていいと思うよ私はー! ………………さて、まさか黒の子と白の子がこんなに打ち解ける日が来るとはね。そんなのは花白くらいと思っていたが……うん明日はそろそろ仲間はずれにされると怒るだろうし、ちびっこ達も連れて来てあげようか」
 残された黒鷹はそう一人呟くと、思いついた提案を話すべく子供たちの後を追った。
 

 翌日は、更に賑やかな夕食になりそうだった。






  *花帰葬部屋へ*