036.遠い、太陽の記憶






 ああ、あれかえ?
 妾はあれは好かんのう。
 燦々と照り付けては、妾の肌を焦がしおる。
 最近は外に出る機会も増えたしの。
 ああ、あれが必要不可欠だということは分かっておるぞえ?
 人にも、獣にも、草木にも、無論、妾にも。
 あれがなければ月は輝かんしのう。
 しかし、好かんものは好かん。
 理由? 先も言うたろうに。あれは、妾の肌を焦がしよる。
 ……
 …………
 ……ええい、鬱陶しいのう。おんしに見つめられても楽しゅうない。
 …………そうじゃな。確かに、それだけではない。
 ないが、おんしにそれを話す必要もまた然り、よな。
 ……………………………………ええい、だからしつこいと言うておろうに! 雷に……あら、クラウスさん。ええ、なんでもありませんのよ。ほほほ、あら、そうですわね。 ……ええ、ありがとうございます。お休みなさい。
 ……
 ……
 ……ほほほ、いつみても可愛らしいこと。
 なんじゃその目は。良いではないか。
 ……なんと、まだ話をぶり返すのかえ。
 ……
 ……そうじゃの。
 前は、妾も肌の焼けるなども、何も気にする事もなく、光を浴びながら笑い、無謀にも直視しようとしたこともあったとだけ言っておこうかの。
 ……おんし、今、大昔だろ、と呟かなかったかえ?
 おや、妾の聞き間違えかえ? ふむ、おんしの言うとおり、疲れているのかもしれんな。そうか、心配かえ。では、妾の為にワインの後の軽い口直しを提供してくれるということじゃな?
 ほほほ、何を申す。おんしが言ったのであろう?
 それとも、後ではなく今すぐに、ということかえ? 仕方ないのう。
 ほほほほほ。




 ……ふむ。相変らず大味よな。
 ほほほほ、そう怒るでない。そもそも、おんしの招いたことであろう?
 ……ん? ……そうじゃな。
 今は遠い太陽の記憶ではあるが、この城にはまた別の太陽がせわしなく動いておるからの。今更淋しくなどない……。
 ……ええい、だからその目はなんじゃ。
 ……やれやれ。今宵はすっかり変な話になったのう。
 まあよい、偶にはこのような日もよかろう。
 ではな、ビクトール。また良いワインが手に入ったのなら持ってくるが良い。 
 







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