034.羽ばたきを忘れた翼






 貴方はとても繊細な子。
 冷たく凍える貴方の殻。
 そっと優しく叩く人の手を払いのけ。
 ただ一人孤独に打ち震えながら灰の中。
 だだ一人世界の果てを見つめ続け。
 呪われた身体を憎みながらそれでも希望を抱きしめ。
 未来に怯えながら愛を捨てきれず。
 貴方はとても優しい子。
 冷たく鋭い殻で触れる人が怪我をしないよう。
 そっと心を消して距離をおく。
 ただ一人周囲に交わらぬよう。
 ただ一人夜毎に魘され続け。
 呪われた運命とうつろいながら夢見続ける。
 未来に嘆きながらそれでも光があるようにと。

 とても悲しく、愚かな子。
 開かれたその目にどうして映らないのでしょう。
 その手を、髪を、肌を、口を、足を、瞳を。
 所詮は歪んだ複製品と蔑んで。
 そう結論付ける心でさえも。
 所詮は紛い物と打ち捨てる。
 とても愛しい、可愛い子。
 開かれた道がどうして見えぬのでしょう。
 その手に未来は既にあるというのに。
 所詮は仮初でしかないと被りふり。
 そう呟いてその手を放す。
 所詮この身には元より何もないのだと。

 私は貴方の為に祈りましょう。
 とうに翼が生え、雛ではなくなった貴方が。
 いつかそのことに気づく事を。
 羽ばたきを忘れた翼。
 羽ばたけることを知らぬ翼。
 いつか、貴方の焦がれる太陽の下、自由に羽ばたく事を。
 私だけは、貴方の為に祈りましょう。





 






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