ああ、あの花、なんて名前だったかなあ。 ぼやける視界の中、そんな事を思う。 君が好きだったあの花。 否応なしに目に映る赤で、そんな連想をするのは自分でも皮肉だと思ったけど。 君が好きで、その花を見て笑う君が好きで、幸せの象徴だったあの赤い花。 笑おうとして、もう筋肉が動かない事に気づく。 足を動かすのは無理だと分かりきっていたから、腕を動かそうとして、やはりそれも出来なくて。ならばと指に力を入れて、入れて、入れて。 動かない。 まあ、今更動いたところでどうでもしようもないのだが。 つい先程までこの身を苛んでいた激痛も、最早段々と感じなくなってきていた。 酷い匂いには、とうに慣れていたので、嗅覚が生きているのか死んでいるのか分からない。 口からどろりと熱いものが溢れ、ああ、まだ熱を感じることなら出来るのかと思った。 眼球ならまだ動かせたので、横を見てみる。きっと自分と同じ様に投げ出された腕。そして、赤。 ああ、あの花、なんて名前だったかなあ。 この道を選んだのは、自分だ。 困窮し、迫害されていたあの町を救ってくれたあの少年について行こうと思ったのは自分。 君は、泣きながらとめてくれたけど。 大丈夫だよと笑ってふりきって。 意外な程に穏やかな気分で、あの少年にも、自分の腹を裂き、臓腑をかき回してくれたあの兵士にさえも、もう恨みはなくて。 ただ君に謝りたい。 ああ、ごめんな。帰れなくて。 また喉からどろりと溢れ出す。今度は、あんまり熱くない。 ああ、ごめんな、ごめんな。 きっと君は泣くんだろうな。 泣き虫の君が泣くたびに、俺はあの花を差し出して。すると君が笑ってくれて。 ああ、あの赤い花。 君の笑顔の花。 あの、名前は、なんだっ、たか |